527: おさかなくわえた名無しさん 2007/04/04(水) 03:19:47 ID:xwOB5IXN
中学3年の受験の頃、
たまたま図書館で手にした
「ローズウォールのテニス」という
古ぼけた、しかしながら
すばらしく面白い本を読んだ為に、
それに感化された僕は、
中学までやっていた
別のスポーツから転向して、
高校からテニスを始めた。
まあ、実は好きになった女の子が
テニスをしてたからってのもあるけど。

入学した高校は、



あまり運動が盛んでもない地元の普通高校。
テニス部も一応あったので入ったが、
先輩は2年に3人、3年に3人しか居なかった。
普段使うテニスコートも、
小さな公園の付属コートで、
およそクレーコートとは言えない
単なる石ころ混じりの赤土だった。

定期的にコートを整備しなおすのは、自分達。
ドカタ仕事まがいの作業は過酷だったが、
トレーニングの一環としてとらえて、汗を流した。

球技一般に言われる事だが、
幼い頃からやってる奴が
自然に身につけた感覚を
短い期間で身につけるのは
容易ではない。
幸い人数が少なかったこともあって、
練習試合には早い頃から出してもらえたが、
小さな頃からラケットを握ってる連中には
まったく歯が立たなかった。

だけど、朝練、授業後の部活、
日が落ちてから少し離れた運動公園で
照明付きのコートを借りてナイトテニス、
休日も、朝からぶっ通しで練習した。
この頃、正月とお盆の時期以外はテニスしてた。
今の自分からは考えられない。



528: おさかなくわえた名無しさん 2007/04/04(水) 03:20:23 ID:xwOB5IXN
高校2年の夏も終わるころに、
県の大会でチャンスはやってきた。
3年の先輩が一人怪我をして、
シングルスの穴埋めを行わなければならなくなった。
元々その大会には
ダブルスで出場するはずだったが、
急遽間に合わせで出場。
しかし、シードでもなんでもない枠からの出場で、
いきなり相手は他校のシード選手。
はっきり言って、一回戦で敗退すると思っていた。

だけど、試してみたい事があった。
今はどうか知らないが、
その頃の高校生レベルのテニスは、
正確なラリーを繋げ、ミスをせず、
ポイントを積み重ねて勝つ、という
いわばアマチュアテニスの王道を行く手法が、
勝利への近道だと考えられていた。
シングルスの試合は、
特にそう考えられていた。
顧問の先生に求められていたテニスも、
そういう種類のテニス。

しかし、どうせ、99%負ける試合だ。
色々横槍が入ることは覚悟で、
賭けをする事にした。

僕は元々ダブルスの選手。
ラリーよりもサーブ・アンド・ボレーやスマッシュでいこう。

いきなり最初から、全部サーブ・アンド・ボレーだ。
いきなり最初から、全部リターンダッシュ・アンド・ボレーだ。
失敗しても、全部そうしよう。



529: おさかなくわえた名無しさん 2007/04/04(水) 03:21:16 ID:xwOB5IXN
試合当日、その日はノリにノっていた。
けっこう上手く決まる。
相手は意表を突かれたのか、
普段のテニスが出来ないことに焦ったのか、
ミス連発。
なんかしらんが勝ってしまった。

そして、そのまま連続で4回勝ってしまった。

部の仲間は大騒ぎで、
僕も嬉しかったが、
翌日から準々決勝が始まるので、
それにも傲慢にも勝つつもりでいた僕は、
先生と先輩達と色々と相談した。
プレースタイルはこのままいく事。
これまでは相手にもされていなかったはずだけど、
今は対戦相手にもこちらの情報は伝わっている可能性があるので、
必要なラリーは行う事。
ただしストローク戦を強いられる状況が続くようなら、
一発狙いのアプローチショット
でダッシュして早めにネットを奪う事。

翌日。試合は朝一からいきなりだ。
僕と親しくしてくれていた先輩と、早起きして、
会場に行く前に地元の公園付属コートで、
色々と試してみて一汗流しておいた。

会場に着いて、
念入りに柔軟体操を行った後、
すぐに準々決勝が始まった。
相手は、地元強豪私立高校の3年生。
とはいえ、あきらかに
こちらをナメてかかってきているらしく、
同級生と雑談しながら入場してきた。
シメシメ。

ラケットをクルクル回して、
僕に選択権が来たので、
サービスから始める事にした。

試合が始まり、一発目、
スライス気味にフォアサイドへサービスエース。
相手の顔色が変わった。
戦術も変えてきた。
守り優先で粘りに粘られる。
流石に相手は強い。
試合は結局、もつれにもつれて
なんとか6-4で僕が勝った。



530: おさかなくわえた名無しさん 2007/04/04(水) 03:22:04 ID:xwOB5IXN
しかし、これまで1セットマッチで続いていた試合が、
準決勝からは3セットマッチに変わる。
体力的にも、技術的にも、
ある種ごまかしの部分が多いまま闘ってきた僕は、
結局準決勝で負けた。

結局、高校3年間では、
県大会で表彰台へあがる事はなかったが、
一つだけ良いことがあった。

それは、好きだった彼女と付き合うようになったこと。


もう別れたんだけどね。


532: おさかなくわえた名無しさん 2007/04/04(水) 03:35:36 ID:IKRtLdsm
あら、いやだ。なんか読んじゃったわ。いい話。


引用元: 胸がスーッとする武勇伝を聞かせて下さい!(50)